午前７時　俄かに忙しさを取り戻した駅のホーム　仕事や学校へ向かう人々の足音
ラッシュアワーという名の魔力　人は皆よそ行き顔で　足早に行き交う
街の片隅のゴミ置き場　それを漁る野良猫の群れには目もくれず
やがて都心に向かう道路は長蛇の車の列　夥しく連なる赤のテールランプ
首都高の渋滞を尻目に　一羽の烏が天高く舞い上がる

僕は寝ぼけ眼を擦りながら　息苦しい電車の窓から変わり映えのない景色を眺め
いつもの駅で下車　人波に押されながら会社へと辿り着く

午前９時　業務開始のメロディー　オフィス街は活気に溢れ　山のような書類の処理
本当の自分を隠しパソコンの液晶と格闘する　機械に操られる毎日の中で浮かぶ疑問
こんなことをするために自分は大金を積んで大学を出たのかと　時々虚しさを覚える

正午　企業戦士たちに訪れた束の間の休息　一時上司の戯言から解放される
公園のベンチでコンビニ弁当とペットボトル入りのお茶を一気に平らげ　溜息をつく
いつ鳴るかも知れぬ携帯の呼び出し音に怯えながら　故郷を離れ早五年
夢に描いた都会暮らしと現実のギャップを痛切に噛みしめる日々
プライドをかなぐり捨てひたすら働けども　我が暮らし一向に楽にならず
安い給料で　その日暮らしが関の山　到底財を残す余地などない
同僚は仲間を蹴落としてまで　上へ這い上がろうと目論む者ばかり
そこに真の友情など微塵もなく　本音を吐き出す暇もない

午後３時　出先にて商談をまとめ　本社に情報端末にて報告
高層ビル群の谷間に吹き荒ぶ暴風に逆らって　駅へと向かう
秒単位で動く都会の時間　時計の針ばかりを気にし　空を見上げる余裕すらない
その途中通りかかったブティックのショーウインドウに映る自分の姿を見て
ふっと溜息をつく　そしてそこに佇むマネキン人形と自分自身とを重ね合わせる

午後５時　業務終了のメロディーが社内に鳴り渡る　OL達はそそくさと帰り仕度
そして今宵の美食談義　ロッカールームから聞こえてくる無責任な笑い声
制服の奥に隠された本性が見え隠れする　残業など端から毛頭にない
先を競うように着飾って街へと繰り出して行った
トレンディドラマのようなオフィスラブなど夢のまた夢

午後７時　コンビニで買い込んだおにぎりを頬張りながら
ひとりデスクに向かい　遅れた仕事を取り戻す　企画書をまとめ翌日の決済を待つ
オフィスは地上43階　夜景の美しさで知られる高層ビル　東京の街並みを一望し
コーヒーを片手に独り窓辺でまどろむ　この時間が自分にとって貴重な至福の時刻
過ぎ行く時間が一瞬だけ止まる

午後９時　ようやく会社を出て帰路に着く　コートの襟を立てて歩くアスファルト
酒臭いサラリーマンとすれ違う夜の通り　ビルの狭間で悲哀が見え隠れする都会の闇
駅へ向かう道すがら　小さな公園で　珍しく屋台を見かけ　軽く一杯
隣り合わせたOLとその上役と思しき連れ合いが　一夜限りの行きずりの恋に堕ちた
それに気づかぬふりして　冷えた心と体に染み渡る熱燗を呑み干す
そして立ち上る湯気は食欲をそそるおでんの匂い　安らぎのひととき　
しかしそれも束の間　気忙しく勘定を済ませ駅への道を急ぐ
駅前の繁華街　手当たり次第に近寄る客引きの甘い誘いを振り払い終電に乗り込んだ

午後10時　中央本線東京駅発高雄行き　重苦しい空気に包まれるステンレス車両は
哀れなサラリーマン族の成れの果て　安っぽいアルコール臭とOL達の香水の香り
心身ともに疲れ果てシートにもたれて眠る乗客たち　隅のほうでいちゃつくカップル
対照的な人間模様　まさに人生の縮図が垣間見える

やがて車窓は街明かりの数が徐々に減っていく　そして停車駅ごとに寂しくなる車内
一時間後　郊外の静まり返ったホームに降り立ち　自分の人生に疑問を投げかける
「これでいいのか俺の人生・・・」
人影途絶えた暗い夜道を重い足どりで　待つ人のないアパートの暗い部屋へと向かう
こうして僕の何気ない日常が終わる

しかし東京という街は眠らない　煌びやかなネオンが街を埋め尽くし闊歩する時刻
行き場のない若者たちが街角に座り込み　その傍らでストリートミュージシャンが
恋唄を奏でる　昼間の喧騒とは異なる顔を見せる都会の夜

年の瀬の繁華街は何かと気忙しく　クリスマスのイルミネーションが街を彩る
夜毎お金が飛び交い　人を欺くことがまかり通る　欲望と悪意が渦巻く夢幻の場所
海岸通りでは　恋という名の魔力に見出された恋人たちが甘い囁きを交わしあい　
その脇では湾岸線を爆走するルーレット族のけたたましいエンジン音が鳴り響く
分単位で行き交う救急車とパトカーのサイレン音が木霊する
工場群は24時間フル稼働　四六時中廃棄物が吐き出され　立ち上る煙が水面に映る

東京タワーのライトアップが消える頃　人々の思い　どこに彷徨い果てるのか
やがて俄かに明るくなる東の空　街の灯りがひとつ　またひとつと消えてゆく
眠らない街　東京　その大都会の片隅で僕は今日も生きている・・・