周囲の反対を押し切って家を飛び出した十七の夏
もう二度と戻らないと覚悟を決めて
東京へ向かう列車に飛び乗った
それから三年　俺は職を転々とし
鳴かず飛ばずの生活　荒んだ暮らしの中で見た現実

描いた夢と思うように飛べない翼　
その葛藤の中で揺れ動く決心
ふと見上げた都会の空は　星も薄らぐ華やかさ

五年目の秋　郵便受けに届いた雨ざらしの手紙
我が目を疑う黒い縁取り　それは親父の死を知らせる
お袋がしたためた見覚えのある文字

「いますぐ飛んで帰りたい･･･」
でも俺にはできなかった　本心を隠してひたすら耐えた
親不孝者と親戚じゅうに罵られながらも
錦を飾るまではと片意地ばかり張っていた

それから宛名のない小包が毎月のように届けられた
開けると俺の体を気遣うような米や食料の差し入れ
俺にはそれが誰からなのかは痛いほどわかっていた

此の頃この歳になってつくづく思う　
親のありがたみ　そして親の苦労　
越えたくても決して越えられない存在

夢破れ挫折した俺を大切に思ってくれる人がそこにいる
「帰ろう故郷に　帰ろう親父の元へ」

夜行列車に揺られ　辿り着いたあの日と同じ駅のホーム
何も変わっていない　変わったのは自分自身の心
七年ぶりに見る故郷　東京では拝めない本当の空がある

実家の門の前で立ち竦み　あと一歩を踏み出す勇気がなく
気づけばその足で子供の頃よく遊んだ公園へ向かっていた
街灯の薄明かりの下　小さなベンチに座り　独りうな垂れる
途方に暮れる俺の前にやがてひとつの影が伸びてきた
聞き覚えのある声に　ふと見上げると
そこには少し老けたお袋の顔

「お帰り　寒かったろう
　　　　　　　お前の部屋を温めてずっと待っていたよ」

その言葉に俺は思わずまるで子供のように
大きな声を上げて泣いた