それは真夏の夜を鮮やかに彩る季節の風物詩
君は一番お気に入りの浴衣に身を包み
団扇を帯にさりげなく挿して
普段より陽気にはしゃいでいる

ほんのりと漂う石鹸の香り　
白いうなじにほつれ髪
ちょっと照れた僕は君の瞳を直視できず
視線をそらし　横顔ばかりを見ていた

手をつなぎ　ふたりで訪れた神社の境内
お賽銭を投げ入れ　手を合わせた君は何を願う
御神籤を木の枝に結わえる昼下がり
露店が軒を連ねる参道で　君は僕に綿菓子をねだる
そして訳もなく夕暮れの街並みをふたりで歩いた

やがて定刻に立て続けに夜空を焦がす大輪の向日葵
僕たちは公園の芝生に並んで腰を下ろし　
同じ空を見上げていた
君は僕の肩に頭をちょこんと乗せて
すっかり安らいだ表情で
物欲しげな眼差しを僕に向ける
花火の合間に暗がりの中で　そっと交わした唇

ひと夏の想い出は甘酸っぱい味とともに
今も僕の脳裏に焼きついて離れない

あれから十年　今年も変わりなく訪れたこの季節
僕はつい無意識のうちに君の面影を探してしまう