黄昏に染まる海で　僕は君を強く抱きしめた
ふたりで何度も訪れた海なのに
今日だけはいつもと何かが違う
君の顔さえ西日に遮られて眩しくて見えない

「これで本当に終わりなんだね」
「もうあの頃のふたりには戻れないんだね」

過去と決別するために　想い出を波に返すために来たなんて
海鳥たちは知る由もない　僕たちだけが知っている真実

君と出逢ったこの海　あの日から僕の人生が変わった
砂浜に寝転んで　飛行機雲を見上げ夢を語り合った
波打ち際を追いかけっこ　水しぶきを掛け合って
まるで映画のワンシーンを君は演出する
裸足に水は冷たくて　すぐに僕は音を上げて　
岸辺へと舞い戻る　君はちょっと不満そう

打ち上げられた貝殻を拾い上げ　耳に当てて瞳を閉じた
甘いムードに酔いしれて　毎日がまるで夢物語
いつかこの日が来るなんて　思いもしないで

夢のひと時は足早に去り　すれ違いの日々　やがて訪れた別れの時
水平線が橙色に染まる光る海が　ふたりに用意された最終章

夕闇が迫り　別れの時間が刻一刻と近づいてくる　
あの桟橋に明かりが灯れば　それがふたりの約束した時刻
僕は心の中で　この夕日が永遠に沈まないでくれと祈った
でもそれは虚しき願い　

君も僕と同じ視線を桟橋の明かりに向ける
会話が途絶え　暫くの沈黙が誰もいなくなった波間に漂う

意を決して君に本音を伝えようとしたその瞬間　
桟橋の外灯に灯が燈った　
君は僕に背を向け　涙を拭いながら僕の手を振り解いた
僕にさよならを言う暇も与えずに　君は僕の前から遠ざかっていった

独り砂浜に残された僕は　夏の終わりの残り香と
寄せては返すさざ波の響きを静かに胸に刻み込んだ
それが僕たちのひと夏の恋物語