同窓会の帰り道　方角が同じ君と　偶然交差点で一緒に信号待ち
十年ぶりに会った君は　すっかり大人びて　
見違えるくらい綺麗になっていた
ポツポツと降り出した雨に　僕はさりげなく傘を差し出して
声をかけた　「久し振りだね　僕のこと覚えている？」
唐突な声掛けに君は少し驚いて　でもすぐその声が僕だとわかった

君と出逢ったのは中１の時　お互い違う小学校から来た者同士
あの頃は声も掛けられずに　ただ君を遠くから見ていた
物静かで　それでいて少し寂しげで　僕はそんな君に惹かれていった
君のことを意識するようになり　いつも君は僕の気になる存在
名前も住所も誕生日も趣味も何ひとつ知らなかった

ただたまに廊下ですれ違うと　僕の胸は高鳴り
まともに君の顔を見ることすらできなかった　
今思えば　それが僕の初恋

その長い間想い続けていた君が　今僕のすぐ隣りにいる
このスクランブル交差点　今すれ違った人とはもう二度と
逢わないかもしれない
この広い宇宙のこの小さな星で君と出逢えた奇跡
そして運命のいたずら　これを逃したら　僕は一生後悔する

僕は意を決して　信号が青に変わる前に「大事な話がある」と
君を近くのBARに誘った
酒の勢いも借りて　積もる話を包み隠さず正直に打ち明けた
中学の頃ずっと君のことが好きで　君ばかりを見ていたこと
いつかこの町のどこかで　再び君と巡り会いたいと思っていたこと
君への想いをすべて話した　すると長い間痞えていた胸の痛みが
不思議なくらい和らいだ

君は最初　戸惑いを覚えながらも　
僕の真剣な眼差しを察して　最後まで話を聞いてくれた
すると意外にも驚くような言葉が君の口から飛び出した
「ありがとう　実は私もあなたのことがずっと好きでした」

何と彼女は僕の名前も　僕が進学した高校も知っていた
そして野球部で甲子園を目指していた僕を　
スタンドから密かに応援していたという
あの頃も僕が声をかけてくれるのをずっと待っていたと･･･

僕は衝撃を受け　自分自身の勇気のなさを悔やんだ
今更　過ぎ去った時間は取り戻せはしないが　
十年前のあの時言えなかった言葉を　今こそ君に伝えよう

もちろん告白などできる訳もなく　迷子の子猫のように
何をどうしていいのかさえわからなかった
しかしそんな甘く切ない時間は　あっという間に過ぎ去り
卒業という二文字で　僕たちは引き裂かれていった

卒業式の後で　離れ離れになる前に　僕はどうしても君に
この想いを伝えたくて　君を探して君の教室へ行った
でも君の姿はもうどこにもなかった
その後　失意のまま僕たちはお互い違う高校へと進み　
それぞれ別々の道を歩いていった　
そして僕の淡い初恋は　そこで終わりを告げた

卒業後　時折開く卒業アルバム
写真の中の君はいつも笑っていた
折に触れ想い出す君の面影　いつも僕の記憶の片隅にあった

「君が好きだった　ずっと君のことが忘れられなかった」
「もし今　君に好きな人がいないのなら　僕と付きあってほしい」

君は瞳に涙をいっぱい溜めて　黙ってうなずいた　
その瞬間　僕の初恋は十年の歳月を越え　本当の恋になった･･･